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アントマン。
アントルームの島田さんが絶賛してらしたので

餅は餅屋。アリはアリ屋。


専門家の言うことをまずは信じるべきだと、見てきました。

座席はアイレベルが低めの前から三列目C席。前がいいですね。
アリの目線で人間の世界を見られる良い映画です。

以下ネタバレも含みますが内容自体が王道娯楽映画で
アントマンの設定は昔からアメコミでなされていたので、許してください。
もうダウンロード発売しているので、むしろぜひ見ていただければと。



そもそも
アントマンの中核技術はアリとはなんら関係がありません

冷戦下アメリカで開発された
「物体縮小化技術」で完全に物理屋さんの仕事。
開発した博士も物理学系のようです。

なんとも解釈の難しい技術で
物体の原子間のサイズを任意に変更できるとのこと。うーん。吸う空気とか
腸内細菌とか、体の周りのゴミとかダニとかどう「縮小化範囲の判定」しているんだろう。
代謝に従って出入りする物質はその都度拡大縮小しているんだろうか、とか。
縮小化した分子と通常サイズの分子との化学反応はどうなるんだろうとか。

物語の後半で巨大化にも利用可能だとわかったので
ウルトラセブンのように自在に縮小拡大が可能なようですが。どうしたものか。体重はどうなるの?とか。
私は物理屋でないので、どこまで科学的に突っ込めるかわからんものです。


なんともすごそうな技術ですが、
その有用性と軍事利用への危険性を予見した博士はその理論と技術を完全にクローズドにしてしまいます。
雇った助手にすら「そんなものは空想だ」と突っぱねる始末。
困ったボスです。はじめから助手雇わなければいいのに。

こういう人間関係がこじれたことが原因の研究キャリアパスの困難に対して、
どうしても若手側に肩入れしてしまいがちなのは私だけでしょうか。

さて、
幸か不幸か、この助手はかなり有能だったようで、隠されたことを恨みつつも、
それに極めて近い技術を30年かけて再発明してしまいます。

イエロージャケットと呼ばれるもの。飛行可能で、レーザーまで出るスーツ。

すばらしいですね。
イエロージャケットには
縮小の恩恵をあまり受けないレーザーや飛行などの技術
(レーザーの低出力化、流体の粘性がネックになることでの飛行の不安定化)を追加するあたりに
若手の焦りとコンプレックスが出ていてとてもいいデザインだと思います。

一方の
アントマンはそのような余計な装飾がなく、スーツも冷戦時代の技術のままで
若干見劣りします。人間大になった時ですら警察のスタンガンも容易に通すほどの弱めのスーツ。
小さくなっていろいろ活躍するのですから、もうちょっと丈夫にしてあげてもいいのでは。




スーツの話が長くなりましたが、
むしろ「物語の中核」となった技術は、縮小化技術よりもむしろアリの操作技術。
スーツ技術のクローズド感に比べてかなりのオープン。
ジジイ博士が、部外者の前科者である主人公に聞かれて、さらりと言ってのけ
「電磁波を嗅覚中枢に照射して操作する」とのこと。

縮小化技術に対しては「調整器は絶対に触るな」と激昂していたジジイ博士が
手のひらを返したように、かなりオープンなサイエンスを展開しています。

元助手もこっそり博士の動向を調査しており、博士には尾行がバレていなかったので、
ジジイ博士がアリの操作技術を持っていることも元助手は調べていたことでしょう。

しかも
ジジイ博士がイエロージャケットを破壊しかねない言動をしたのに対し
警備を三倍にする予算の潤沢さをみせながら、
アリ対策には「空調の金網の目を細かくする」という大変にローテクな対策。

「アリを防ぐならバルサンを炊けばいいじゃない」




かくして、
アリの高度な行動操作によりアントマンは文字通りのザル警備を突破し
丸腰で施設に侵入し、施設とデータとジャケットの破壊という目的を達成してしまうわけです。

イエロージャケットの技術とアントマンの技術自体にあまり優劣は感じられなかったので
アリが勝敗を分けたといってもよいでしょう。

アリの行動操作、この技術はアントマンの縮小技術よりも軽く扱われていましたが

結末を見るとこの技術、むしろ縮小技術より秘匿にすべき重大な技術のように思えてなりません。

物語のラストでジジイ博士は改心し「技術を秘匿にするのは難しい。むしろ正しい者に担ってもらう」
と、30年前にに改心していれば助手とも娘ともあんだけこじれなかったのではないかと心配になる手のひら返しぶりを披露します。

ここで
物体縮小技術と抱き合わせで、なんとなく正しい者に担われることになった
「アリの行動操作技術」について、
次回作でどう利用されるか、昆虫学をひもときながら考えてみましょう。


参考文献は
アリの巣の生き物図鑑という
図鑑の形をしたなんだかすごい本です。



もう一度言います。
「図鑑の形をしたなんだかすごい本です」
専門家の専門分野のための図鑑であることに間違いないのですが、

これが他の図鑑と同様に図書館におかれることで、
どこかの子供が何かに目覚めかねない危険物です。
それほど漏れ出てくる熱量がすごい。特にコラムが読み応えがあります。
おすすめです。

アリは遺伝子組み換えも成功しておらず、というか継代飼育ができていないし
薬理学的な注射も効かない(すぐ死んでしまう)ことから、なかなか行動操作的な
研究が難しいのですが、タッチングフェロモンなどの化学物質を利用して
コミュニケーションをしていると考えられます。

また、様々な好蟻性生物が、主に嗅覚をハッキングすることで
攻撃的な蟻の群れにまんまと潜り込み、やりたい放題やっているのをみると
アリの嗅覚系が、ハッキングしやすい脆弱性をもつと考えられます。

そのため電磁波で嗅覚中枢をハッキングする、という発想自体は
かなり現実的でしょう。しかし、電磁波感受性の神経基盤を
きちんと捉える必要があるでしょうし、どの個体のどの神経細胞を
狙うかを三次元の座標として決めないと情報の混線も起こるでしょうし
なかなか難しいように感じます。


このような複雑な行動操作を電磁波で行う技術はまだ確立していません。
ただ、光感受性のタンパクを脳の特定部位に発現させて、光を照射して神経活動を引き起こし、
その機能を測定する研究があるので、ゆくゆくは実用可能な技術だとは思います。


また、
目的に応じて可塑的な行動をとらせるにしても、
アリの様子を常にモニターせねばならず、
老眼が進む博士には酷でしょう。

アントマンもアリを見るばかりでは
仕事になりませんので、

もうちょっと、
注射一発で長期間、自律的で複雑な仕事をさせられるような
行動操作があればいいのに、と思いました。




アリでは観察されていないようですが、注射により
ハチが高度な行動操作をすることが報告されています。

丸山宗則先生の「昆虫はすごい」でも、
エメラルドゴキブリバチが
ゴキブリを仮死状態にすることは知られていますが


クモとヒメバチの関係はもっと複雑で、
よりアントマンの理想に近いものと思われます。

最近センセーショナルに報道されたのが
クモの造網行動を操作するクモヒメバチの研究。



すごくおもしろいです。
本としてのおもしろさも抜群ですのでオススメします。
学生が読むと身につまされる苦労が赤裸々に披露されているので、
モチベーションが下がった時のエナジードリンク的に読むと勇気づけられます。


著者に先駆けて2000年に報告された造網行動の操作は
クモに寄生したハチがクモを殺し、10日間の蛹期間を経て羽化するのですが
クモを殺す前に、10日の蛹期間に耐える強固な網を作らせる「行動操作」を行います。

この行動操作は
「寄生者は宿主の本来の生態を利用する」と議論されています。
造網行動の一部の行動ルーティンを繰り返させることで、
強固な蛹を支える網を作らせているだろうと。

なので、「注射一発で、長期にわたって、複雑な行動操作をする」という点で

もう一つのアプローチとして、注射式の行動操作も
次作に向けて開発検討してみてはいかがかとおもいました。 



そんな私の願いを
ジジイ博士が聴きとったのか

映画の最後に「ワスプ」の新スーツがお披露目されて
アントマンは終わります。

実は、先の「行動操作」のために次世代のスーツ「ワスプ」が誕生したと、睨んでいます。



ワスプ Waspは日本語訳がまちまちで
スズメバチとも訳されることがあるのですが、狩りバチ一般を示すことが多いようです。

ミツバチはBeeで、大型のスズメバチはHornetなので

このワスプ、寄生蜂だとすると

そして、
マーベルのオールスター映画、「アベンジャーズ」に

アントマンとワスプが参戦することが示唆されました。

更に、
スパイダーマンが、出版社の枠を越えて参戦するそうです。

もうおわかりですね。

次作
「アベンジャーズ」はワスプによるスパイダーマンの行動操作がキモです。

ワスプが一刺しすることで
スパイダーマンの動きが操作され、
意識せぬままにアントマンとワスプの意のままの網を張りまくるスパイダーマン

映画後半にスパイダーマンのスーツを食い破って次世代のワスプが出てくる

かなりアレな展開が見られるかもしれません。
期待しましょう。


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プロフィール
HN:
Mushikurotowa 
性別:
男性
趣味:
昆虫料理開発
自己紹介:
NPO法人食用昆虫科学研究会 理事長
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2008年「なぜ昆虫に食欲がわかないのか」研究を開始
食べたらおいしかったので「昆虫食で世界を救う方法とは」に変更。
昆虫の味の記載から、昆虫の特性を活かしたレシピの開発、イベント出展、昆虫食アート展覧会「昆虫食展」まで、
様々な分野の専門家との協力により、新しい食文化としての昆虫食再興を目指す。

2015年 神戸大学農学研究科博士後期課程単位取得退学
テーマは「昆虫バイオマスの農業利用へむけたトノサマバッタの生理生態学的解析」
2018年よりラオスでの昆虫食を含めた栄養改善プログラムに専門家として参加
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