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後編です。

まず
一般的に「プラスチックは分解されない」
ということについてもうちょっと考えてみましょう。

我々が日常使っているプラスチックのほとんどは
炭素を含む高分子の有機物です。

そのため、
有機物を扱う生物の一部、特に莫大な種があり頻繁に変異する微生物は
プラスチックの成分を分解できるものがあります。

簡単に
土壌からスクリーニングできるキットもあります。
http://www.cosmobio.co.jp/product/detail/01650001.asp?entry_id=3134

つまり、生物がプラスチックを分解することはすでに可能で

ただその分布がヒトの活動に依存していること、

ポリマーが疎水性で強固なため、表面積を確保できず
酵素反応がうまく行われないこと

そして炭素以外の有機態窒素などの生物にとっての栄養をほとんど含まず
分解してもベンゼンなどの毒物質ができることから利益が薄いこと

などから、木質バイオマスと同様に、
生物の栄養源として優先度が低い状態なのが
「プラスチック」なのです。

分解性生物の優先度が低くなった結果、
残存量の多いポリマーとして「木質」も同様に考えられます。

木質は親水性の炭素骨格、セルロースを主体とするポリマーですが
他にリグニンやヘミセルロースなどの複数のポリマーががっちり絡みあった状態なので
なかなか酵素反応だけでは分解できません。
特にリグニンはフェノール基を含む疎水性の成分なので、プラスチックによく似ているといえるでしょう。

FRP(繊維強化プラスチック)あたりがイメージとして近いかもしれません。

そのため、セルロースをナノファイバー化してプラスチックと混ぜあわせた
セルロース型のFRPも開発されています。

それらと、紫外線への分解感受性を高める添加剤や
土壌微生物で完全分解できる生分解性プラスチック
などを組み合わせることで
木材以上の強度と、適度な分解性を備えたプラスチックの開発は可能でしょう。

また、
木材においてもアゴをもつ昆虫の侵入が大きな問題ですから
同様にアゴをもち、共生細菌によって分子レベルまで分解できる木質昆虫が
将来のプラスチック製品の「害虫」になるかもしれません。

今のプラスチックはあまりに生分解性がないために、
その処理が十分でなく、海に流れています。

一方で、あまりにありふれていてコントロールできない
環境中の微生物や紫外線のみで分解してしまうプラスチックでは
強度的に心もとないでしょう。

そこで、
「昆虫分解性プラスチック」と
「プラスチック特異的分解微生物」を開発し
「プラスチック特異的分解微生物共生昆虫」を養殖。
その防除法までを同時に開発することで

環境中にインパクトの少ない、そして
昆虫を利用することで、プラスチック製品の設置が間接的に食糧備蓄になるような
未来の形ができるかもしれません。


話はすこしそれますが、実は、そのような
技術は、木質昆虫ではまだなのですが、
カメムシで既に報告されています。

日本の産業技術総合研究所のグループでは
カメムシの共生細菌を抗生物質で殺し
遺伝子組み換えをした別の微生物で再構成する、という
「共生細菌サイボーグ」のようなものを作っています。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2016/pr20160111/pr20160111.html

基礎的な知見として、今まで知られてこなかった
微生物と昆虫の共生関係を調べるとんでもないキレッキレの実験系なのですが

その中で殺虫剤耐性を環境細菌から獲得することも明らかになっています。
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2015/pr20150901/pr20150901.html

これは、昆虫という世代の比較的長い生物が
世代の短く、変異の多い細菌と同じ速度で殺虫剤耐性を獲得する可能性を示すものであり、

今の抗生物質、抗菌剤と同様に、次々と耐性菌が登場してその開発が追いつかない現状と同様に
「多剤耐性昆虫」が容易に発生する可能性を示しています。

そのようなことになれば、今のように環境中に殺虫剤を散布することは
無闇に抗生物質をばらまくことと同様のリスクであることですので

もっと特異的で、
土壌への散布を避けるような限定的な利用をしなければならなくなるでしょう。

その時、天敵農薬や特異的殺虫剤などのようやくの出番です。

全ての昆虫に効くような、細菌でいうところのバンコマイシンのような
「最終兵器殺虫剤」の日常使いは禁止されていくでしょう。


話をもどします。

未来の昆虫利用においては、

プラスチックだけでなく
殺虫剤も昆虫毒性高い高分子と考えると、

その分解という「生態系サービス」までを
含めた運用を提案することができれば、新しいシステムが見えてきます。

多くの場合、高分子は工場で集約的に大量生産されますが
その利用は各個人、各家庭、各地域へと「分散」されています。

その分散した有機物は、廃棄される段階になると「再集約」され
集中的に処理されています。

これでは、
処理の度に輸送エネルギー、回収エネルギーがかかってしまい
それらのエネルギーを使ってペイできないもの
たとえば、
バイオマス発電の発電量よりバイオマスの輸送エネルギーの方が大きい場合
腐りやすく含水量の多いバイオマスを飼料利用するため冷蔵輸送する場合

は、損益分岐点のハードルが高い状態ですので
利用されない「余剰バイオマス」ができてしまいます。
無理やり利用しても、かえって環境負荷が増えてしまいます。

そこで次に考えられるのは、集約生産されたものを分散利用した後、分散再処理して使うことで
輸送エネルギーを節約できるでしょう。


その時、昆虫のように容易に増やせ、処理能力が集約しても分散しても変わらず
メンテナンスも容易なシステムが有効です。

更に考えます。

いまの一次産品の多くは分散的に生産され、収穫されて集約されたものなので、
それらが分散的にそのまま利用でき、その不均衡だけを輸送する最適化システムができれば
自然エネルギーなどの分散的に発生するエネルギーを利用することになり
地下資源の枯渇後の生産システムとして有望でしょう。


この中で集中的に生産されるのは、
いわゆる「鉄器」のような耐久消費財だけになると考えられます。

最終的な3の状態になることは百年単位で当分先ですが
「脱集約 Decentralize」は、
この先のバイオマス利用においてホットなポイントになると思います。

電力、情報の脱集約化が起こりつつある現在、

次の脱集約は食糧で起こるべきだと思うのです。
その時、常温常圧で作動し、処理に失敗したら死ぬことでアラートを出してくれる
昆虫は、植物に寄って生産されたものを、
何度も分散再処理するシステムの中核を担うことになるでしょう。

また、そのシステムをよりコンパクトに、閉鎖系で設計することが
将来の食料生産システムにとって有用な知財であることをアピールし
多くのヒトに将来に思いを馳せさせる「デザイン」になるだろうと、予言しておきます。

そして、未来の脱集約食料生産モデルを見ながら食事をすることは
食品そのものではなく、そのプロセスを味わう
新しい「グルメ」の形で普及していくでしょう。
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中編では、ミールワーム、
つまりチャイロコメノゴミムシダマシの生理と生態について、
「木質昆虫学」という視点から掘り下げます。

ゴミムシダマシという名前は大変に誤解を招きます。
ゴミムシとはけっこう遠い仲間で、全く別のグループと考えてよいです。

参考文献はこちら

木質昆虫学序説




森林利用、というヒト視点を軸に、概観した本なので、
昆虫の利用をヒトへの利益の視点から考えたいわたしにとっては
大変うれしいまとめでした。


話はそれますが、カミキリムシがおいしい、という話はここでもよくしますが
なかなか無料で、多くの人に提供できる数は手に入りません。

カミキリムシが薪の利用低下とともに入手困難な昆虫になってしまったからです
「カミキリが侵入した苗木を見分けるイヌ」とか(本来は植物防疫目的ですが)
とても食欲、もとい想像を刺激されます。

話を戻します。
この本は膨大な情報量と文献リストへのアクセスができるので
門外漢が分野の概要を知るのにやはり母国語のほうがスピードが節約でき
すごく助かりました。

木質という地球上における残存量最大の「やっかいな」バイオマスの
物理化学的性質、そして植物学的特徴という基礎的な面から
林業などの「実学」につながる部分
更に食用も含めた未来の
昆虫利用まで総合的に論じている点で非常にためになります。

また、
木質昆虫の飼育養殖は難しく、木材が巨大であること、
そして木材そのものが売り物ですから
それらを全て調べることは容易ではありません。


昆虫種や生態など、
研究観察しやすいものとしにくいものの間に、研究進捗のギャップがあることから
概論を導くためにかなりざっくりとした類推を含む部分もあるので、
この本の主張から引用して持論を展開するのはあまりよろしくないように思います。
原著に至るガイドラインとしてすごく役立つかと。
母語で新しい分野の概観を読むことができるというのはとても恵まれたことだと感じました。


お買い得ですが安くはない本なので、ぜひ最寄りの図書館に購入希望を出してみましょう。
図書館は不特定多数の人に安価で読書の機会を提供する裝置なので
こういう地雷を公的機関に仕掛けて、将来の昆虫研究者を増やす活動に勤しみましょう。

この本のガイドに従って、
木質昆虫、とくにゴミムシダマシについて
詳しく見ていきましょう。




昆虫が利用する木質の分類として大きく2つにわけられるそうです。

一つは生きている木を食べる「一次性種」と
もう一つは死んだ木を食べる「二次性種」です。

一番大きな違いは木の生理的食害応答があるかどうか、です。
カミキリムシなどの生木を食べる昆虫は、生木にある成長点などの
栄養豊富な部分をターゲットとし
食害に対する防御機構をかいくぐり、しまいには木を枯らしてしまいます。
枯死した木には、その分解状態に応じて生木食以外の二次性の昆虫が、
その分解を引き継いでいきます。

枯木のバイオマスは生木に比べて
炭素ばっかりでタンパク質の元となる有機体の窒素が少なく、
それでいて生木と同様に
セルロース、リグニン、ヘミセルロースなどの
多様な高分子が互いに強固に接着したままですので
その分解にはもちろん多様な酵素が必要でしょう。


そのため
「生木食のカミキリムシだけを生産し続ける林」というバランスを保つのは
なかなか難しいと思われます。

木材利用も含めて考えると、
木を枯らしてしまうと、木材としても使いにくい枯木になってしまうことから
一次性種であるカミキリムシはおいしいけれども、将来性があまりないのはこのためです。
薪利用とカミキリムシ食はセットで考えるのが良さそうです。




一方で、ゴミムシダマシの多くは
枯木を食べる二次性種です。一次性種であるキクイムシのフンを食べる
ものもあるようで、恐らくアゴの発達と機械的強度とも関連しそうです。

また、ゴミムシダマシの幼虫は脂肪が多く、タンパク質は少ないので
貧窒素・低湿度に耐える特徴があるのかもしれません。

ミールワームは特に乾燥に強く、コムギのふすまで飼育できますが
湿気を与えると一気にカビが出てしまいます。
飼育にあたっては野菜くずなども食べてくれるので
湿気の溜まらない排気システムを備えた
生ごみ処理機
Livin Hive 
もキックスターターで最近有名になりました。
http://www.livinfarms.com


これは見事に14万5千ドルの資金調達に成功し、現在製作中だそうです。
830 backers pledged $145,429 

先の論文のことを考えると、
これに、
プラスチック梱包材も入れられるかもしれません。

では、木質昆虫であったミールワームがなぜ、
スタイロフォームを分解できたのか、後編で考えてみましょう。

そして、ミールワームから、
昆虫によるバイオマス利用のブレイクスルーが起きるのかどうか、まで、
予想してみます。

昨年10月に、面白い論文が出ました。

ミールワームが共生細菌と一緒にスタイロフォーム(発泡ポリスチレン)を分子レベルまで分解する

というものです。

とても良い写真とともに。

http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.est.5b02661

確かにスタイロフォーム食ってる。
スタイロフォームとはいわゆる発泡スチロール。建築材で大量流通しているのでとても安く、
造形の世界でも大型の造形物の芯に使われたり、とっても便利な素材です。

二報にわたって示されたことには、ざっくり言うと

1,ミールワームはスタイロフォームを食って分子レベル(脱ポリマー化と二酸化炭素への分解)の分解をしている。コムギのフスマを食べさせたものとスタイロフォームを30日食べさせたものは、生存率に有意な差はなかった。食べたスタイロフォームのうち16日で半分程度がCO2へ。

放射性同位体の炭素C13を使った追跡によって確認
2,スタイロフォームポリマー(ポリスチレン)は消化管の共生細菌によって分子レベルにまで分解されているようだ

ディスカッション
プラスチック廃棄物の処理方法の1つの手段になるかもしれない。

とのこと
これはすごい。

やはり再現性が気になったのと、
30日間のその後の長期的なミールワームの健康が気になったので、
やってみました。

昨年10月から仕込んで、2パックほどの市販ミールワームを。
11月25日の写真がこちら。
 
食ってますね。底に水色の粉が溜まっているので
少なくとも粉末レベルで破砕しています。
そして4月

遅いですが食いっぷりは進んでいます。

味は。。。


あまり普通のものと代わりはない。プラスチック製品のような溶剤の香りもない。
もちろん無臭の成分でも体によくないものがあるのでおすすめはしません

追記です。
論文に記載されている分解については
ポリマー化しているα炭素とβ炭素についてラベリングしていますが
ベンゼンについてはまったくノータッチです。
C02として無機化しているということは、
好意的に見ればベンゼン環も分解されたと見えますが、

ベンゼン環はかなり安定した化合物で、分解菌も通常ほとんど分布していないこと、
変異原性があることから、分解の可能性は低いでしょう。
なので、せっかく安定していたポリスチレンからベンゼンを放出する「余計なことしい」
の可能性もあります。


続報を待ちましょう。というかベンゼンに標識した結果ってなんでないんだろう。。

なので試食はおすすめしません。今の段階では。



香ばしさが幼虫より強く、甲虫でも食感はとてもよい。揚げなくてもサクサクしている。



今のところ成虫までにはなったのですが、次世代が生まれていません。
完全栄養食とはなっていないのでしょうか。
引き続き観察します。

さて、
スタイロフォームの材料であるポリスチレンなどの
プラスチックはヒトの活動が近年生み出したもので、
自然界には本来分布していません。

こんな分子構造をしています。


紫外線でポリマーの分子結合が分解されながら
機械的な破砕とともに細かくなっていきます。

いったん表土などで被覆されたり
水に沈んだりすると
分解は相当に遅くなります。

機械的な破砕によって細かくなったプラスチック破片「マイクロビーズ」は
野生生物への悪影響があるのではないか、と懸念されています。
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3725/3.html

今のところ野外での重大な影響は報告されていませんが、
実験室内での影響はあったとのことです。

そんな中で、
ペットの生き餌として使われる身近な生物、ミールワームと
プラスチックとのマッチングは
我々のプラスチック処理のシステムを大きく変えることになるかもしれません。

梱包材や衣服など、身の回りにあふれるプラスチック製品を
昆虫で転換して食べてしまう、という未来です。

はたしてこのマッチングは
「奇跡的」なものでしょうか。

そして
廃棄物処理の救世主になるのでしょうか
いまのところ結論を保留して
昆虫学のレベルからもうちょっと冷静に考えてみましょう。

中編に続きます。

2013年にゲジを味見してからもう3年にもなるんですね。


きっとオオゲジはおいしい、と思いながらのようやくの出会いです。


今回は他の昆虫を目当てで夜間採集に行ったのですが、
目的のものはとれず、でもオオゲジは二頭とれました。

ゲジは偽複眼、という単眼の集合体を一対もつことから
かわいらしいつぶらな目をしています。

長い多くの脚に隠れて見えませんが
竹林の隙間から見えるような可愛らしい顔。すばらしいですね。

味見のまとめでも気づいたのですが

「食べる前の見た目の印象」と

「食べておいしいとわかってからの見た目の印象」
は大きく変わってしまいます。

ゲジというとムカデの仲間で牙があって、動きが早くて足が多いし
すぐとれるから触るのが怖い。触って殺してしまうのも怖い、

という感じで、
どうにも猫の背みたいな「掴んでいい部分」が見当たらないんですね。
どう触っていいかわからない、というのはなんだかお近づきになりにくいです。

ところが、一度おいしいことが分かってしまうと、
そんなのは
大した問題ではなくなってしまいます。

食べて克服すること、というマウンティングによる自分の優位性が
確かめられたことで、
相手を過大評価しなくてすむようになるのかもしれません。

「苦手な虫を食べて克服」という昔の辞書の暗記のようなことが
将来起こるかもしれません。

そして、ゲジというネーミングも悪いと思います。
ゲジという濁音二音だけ、バカが考えたような短い名前。

食感も悪そうで、ジャリジャリしそうな名前ですよね。
オオゲジといういかにも大きすぎるような印象をあたえるのも良くありません。
私たちが食べる動物性食品のうち、オオゲジは小さい方です。

そこで、

コガタリクアノマロカリス

というかっこいい名前をつけました。

学名で奇妙なエビ、という意味を持つアノマロカリス、
彼らはただデカくて海にいるだけですから
イセエビと比べてもあんまり奇妙でもありません。

陸上で捕食者として走り回る彼らこそ、「奇妙なエビ」でしょう。

食欲をそそらない和名、というのもこれ以外にも改訂していいかもしれません。


ということで、味見をしてみましょう。
茹でるとあっという間に自切し、胴体だけになってしまいました。

足先はゼンマイのように丸まります。

色は不透明になり、青みがかりました。

味見
ゼンマイのように丸まった足先の食感はゲジよりだいぶ固い。
イモムシのようになった胴体はシコシコとした食感と芋のような甘い香りとやさしい甘み、
そしてエビに負けない強い旨味があって最高。あぁうまい

奇妙なエビ、コガタリクアノマロカリス、
特に苦手な方は、その克服にいかがでしょうか。
by ケミストリー



思いは思いのままで。と歌ったのはケミストリーですが

食材のにおいはにおいのままで楽しもう、というのが今回の趣旨です。

単に消そうとするだけでは

その臭みのない他の食材の下位互換でしかなくなってしまいます。

消すのではなくちょうどいい具合に弱めて他の食材と合わせる。

フードマッチングとかフードペアリングというイメージがいいですね。

何と合わせるか、もちろんわが家の大黒柱、ゴキブリです。



以前から、生ごみ処理機として

マダガスカルゴキブリを1kgほど飼育しています。

飼育容器の開発も第6世代に突入し

強制的な換気装置と、フン自動分離機構を備えたので

半年に一度ぐらいの大掃除をする以外はノーメンテ。



彼らの天敵はカビとハエです。

どちらも抗菌剤を出して高湿度に対応する生物です。

どちらもゴキブリの健康を著しく阻害するらしく、

死体にカビもしくはハエが増え、更にゴキブリが死ぬという

負の虐殺スパイラルになってしまいます。地獄絵図です。

ゴキブリの養殖経験の長い爬虫類愛好家の方は

生ごみなどの湿度リスクを考えて

乾燥した配合飼料と水のみを与えているそうです。


ともあれ、

マダゴキによらず

彼らのヒト住居への適応能力は高いものがあります。

よく誤解されがちなのが「ゴキブリは最強の生物」みたいなのです。

テラフォーマーズも影響しているかもしれませんが。

これは全くの誤解です。

「ヒトの好みのままに創りだした環境がたまたまゴキブリにも適していた」

のです。

決して他の昆虫よりとりたてて優れているわけではありません。



ではなぜ、

ゴキブリはヒトの住居に適応できたのでしょうか。

まずは
近年のヒト住居について、もう少し考えてみましょう。

まず野外の昆虫が入ってきません。

ゴキブリは特別な防御機構をもたないことから

野外では格好のエサとして消費されています。

オオゲジやアシダカグモなどの翅をもたない徘徊性の節足動物のエサです。

ですが今の密閉性の高い住居では人の出入りが唯一の侵入のチャンスですが

警戒心の強い大型の捕食者は、なかなか入ってきてくれません。

ヒトは無意識ですが、彼らにとって我々は決して勝てない捕食者なのです。



次に、優れた空調です。

ヒトに限らず、従属栄養生物はガス交換をしないと窒息してしまいます。

ですが、ふつう、ガス交換は同時に熱の移動も伴います。

なので、本来であればガス交換と、保温、保冷は
相反するものなのです。

風通しが良くて夏暑い、冬寒い家
風通しが悪くて夏涼しく、冬温かい家

というトレードオフではなく

夏涼しく、冬暖かく、かつ風通しが良い
という空間を少ない電力エネルギーで実現しています。

空調、つまり熱交換器の実用化によって、
ヒトの住居は圧倒的に住みやすくなりました。

そして断熱のよい構造体。鉄筋コンクリートですね。

ゴキブリは住居がビル化する前は、
家を通過するごくありふれた昆虫たちの一種でした。

ところが、気密性が高く、乾燥したビルに、
有機物を大量に置く、という

選択的ゴキブリ誘引トラップが設置されたことで

我々はゴキブリを誘引され、屋内で養殖して
そしてそれに人々が驚く、という

不幸なマッチポンプを生み出してしまったのです。


さて、
ゴキブリといえども、マダゴキはマダガスカル出身ですので、
日本人とマダガスカル人どころではなく、キツネザルぐらい遠縁のものを

ゴキブリという和名でくくって嫌がってしまうのも、なんだかかわいそうなものです。

なんとか印象を挽回する方法はないものか。
やはり、

彼らをおいしく食べる事を考えましょう。

今回使うのは、美しい脱皮直後のメス成虫です。

白い。美しい。


昆虫は、陸上での外皮の硬化に色の出る化学反応を使っているので、
残念ながら茶色っぽく、黒っぽくなってしまいます。

しかし脱皮直後は別です。色素の少ない、透明感のある美しい姿は
食感もよく、食べごたえもあり、最高の時期だと思うのです。

しかし、
ゴキブリにはゴキブリらしい臭さがあります。

ケミカルというか、ムレ臭というか、ゴキブリ臭とも呼べますが。

集合フェロモンだそうで、ゴキブリのフンからも同様のニオイがします。

以前にチョコを食べさせた時、そのニオイが低減したことから、
何らかの食事制限によって多少変動はさせられそうです。

今回目指すのは
「ゴキブリ臭い、けれどもゴキブリクサおいしい」という未来の料理です。

そして、以前の粉末バッタが粉末としての利点を活かしたことをふまえて
体のままであることを活かした料理とします。

「注入」です。

羊の腸の皮に他の畜肉を詰め込むという黒魔術のような料理、

ソーセージと言われるものは今では世界中に普及しています。

単なるひき肉つくねでは得られない、パシッとした食感が

その悪印象を払拭してくれる「おいしさ」なのでしょう。

そして、脱皮直後のゴキブリは柔らかく、中身が結構スカスカです。

脱皮時にしか外皮の表面積は増えませんので、

外骨格生物は脱皮すると先に外の大きさを決めてしまい、

後から中が充実してきます。

そのため、最も身が張っているのは脱皮直前なのです。


余談ですが、外皮が比較的柔らかいセミ幼虫は

肉がしっかり詰まっていて圧力の高い脱皮直前のものが一番おいしく、

脱皮直後のものは美しいですが、

濡らしたティッシュのようにやや味気なくなってしまいます。


話を戻します。

今回注入する液体は
「既存の料理に使う調味料」の組み合わせで作ります。

ムレ臭のような香りはニンニク、
フルーツのような華やかな香りはワインビネガー

注入する都合からニンニクのワインビネガー漬けを作りまして

苦味要因としてチーズ(材料にセルロースを含まないもの。含んでいると注射器が詰まります)

そして結着剤として卵を入れ、「ゴキブリ臭く」仕上げます。

ダイソーで売っている化粧品小分け用の注射器を使い

脱皮直後の余裕のある外皮に対して、尻から体側面にたっぷり注入します。


深海のヨコエビのような感じになりました。

これをバターと胡椒で低温じっくりと焼き上げ




トマトとアイスプラントで仕上げ。

 

おいしい。。確かにゴキブリ臭いけどだがそれがよい

プリっとふくらんだ腹部はパンと張り
チーズとニンニクの旨味がじわっと。
フレッシュトマトのジューシー感とアイスプラントのさくっとした食感と酸味。

いずれもすばらしい!おいしい!

マダゴキの新たな可能性を感じました。

同時に「言語化=情報化」と「見立て=抽象化」のパワフルさも。

ゴキブリの味の特徴を言語化し、他の食材で見立て、

相性をマッチングして作っていく、創作料理のエキサイティングな過程を体験できました。

プラモデルで言うところのキット改造からフルスクラッチへ。

昆虫料理を既存の料理のアレンジではなく、フルで創作する段階に来たのかもしれません。
Mushi_Kurotowa
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プロフィール
HN:
Mushikurotowa 
性別:
男性
趣味:
昆虫料理開発
自己紹介:
NPO法人食用昆虫科学研究会 理事長
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2008年「なぜ昆虫に食欲がわかないのか」研究を開始
食べたらおいしかったので「昆虫食で世界を救う方法とは」に変更。
昆虫の味の記載から、昆虫の特性を活かしたレシピの開発、イベント出展、昆虫食アート展覧会「昆虫食展」まで、
様々な分野の専門家との協力により、新しい食文化としての昆虫食再興を目指す。

2015年 神戸大学農学研究科博士後期課程単位取得退学
テーマは「昆虫バイオマスの農業利用へむけたトノサマバッタの生理生態学的解析」
2018年よりラオスでの昆虫食を含めた栄養改善プログラムに専門家として参加
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