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by ケミストリー
思いは思いのままで。と歌ったのはケミストリーですが
食材のにおいはにおいのままで楽しもう、というのが今回の趣旨です。
単に消そうとするだけでは
その臭みのない他の食材の下位互換でしかなくなってしまいます。
消すのではなくちょうどいい具合に弱めて他の食材と合わせる。
フードマッチングとかフードペアリングというイメージがいいですね。
何と合わせるか、もちろんわが家の大黒柱、ゴキブリです。
以前から、生ごみ処理機として
マダガスカルゴキブリを1kgほど飼育しています。
飼育容器の開発も第6世代に突入し
強制的な換気装置と、フン自動分離機構を備えたので
半年に一度ぐらいの大掃除をする以外はノーメンテ。
彼らの天敵はカビとハエです。
どちらも抗菌剤を出して高湿度に対応する生物です。
どちらもゴキブリの健康を著しく阻害するらしく、
死体にカビもしくはハエが増え、更にゴキブリが死ぬという
負の虐殺スパイラルになってしまいます。地獄絵図です。
ゴキブリの養殖経験の長い爬虫類愛好家の方は
生ごみなどの湿度リスクを考えて
乾燥した配合飼料と水のみを与えているそうです。
ともあれ、
マダゴキによらず
彼らのヒト住居への適応能力は高いものがあります。
よく誤解されがちなのが「ゴキブリは最強の生物」みたいなのです。
テラフォーマーズも影響しているかもしれませんが。
これは全くの誤解です。
「ヒトの好みのままに創りだした環境がたまたまゴキブリにも適していた」
のです。
決して他の昆虫よりとりたてて優れているわけではありません。
ではなぜ、
ゴキブリはヒトの住居に適応できたのでしょうか。
まずは
近年のヒト住居について、もう少し考えてみましょう。
まず野外の昆虫が入ってきません。
ゴキブリは特別な防御機構をもたないことから
野外では格好のエサとして消費されています。
オオゲジやアシダカグモなどの翅をもたない徘徊性の節足動物のエサです。
ですが今の密閉性の高い住居では人の出入りが唯一の侵入のチャンスですが
警戒心の強い大型の捕食者は、なかなか入ってきてくれません。
ヒトは無意識ですが、彼らにとって我々は決して勝てない捕食者なのです。
次に、優れた空調です。
ヒトに限らず、従属栄養生物はガス交換をしないと窒息してしまいます。
ですが、ふつう、ガス交換は同時に熱の移動も伴います。
なので、本来であればガス交換と、保温、保冷は
相反するものなのです。
風通しが良くて夏暑い、冬寒い家
風通しが悪くて夏涼しく、冬温かい家
というトレードオフではなく
夏涼しく、冬暖かく、かつ風通しが良い
という空間を少ない電力エネルギーで実現しています。
空調、つまり熱交換器の実用化によって、
ヒトの住居は圧倒的に住みやすくなりました。
そして断熱のよい構造体。鉄筋コンクリートですね。
ゴキブリは住居がビル化する前は、
家を通過するごくありふれた昆虫たちの一種でした。
ところが、気密性が高く、乾燥したビルに、
有機物を大量に置く、という
選択的ゴキブリ誘引トラップが設置されたことで
我々はゴキブリを誘引され、屋内で養殖して
そしてそれに人々が驚く、という
不幸なマッチポンプを生み出してしまったのです。
さて、
ゴキブリといえども、マダゴキはマダガスカル出身ですので、
日本人とマダガスカル人どころではなく、キツネザルぐらい遠縁のものを
ゴキブリという和名でくくって嫌がってしまうのも、なんだかかわいそうなものです。
なんとか印象を挽回する方法はないものか。
やはり、
彼らをおいしく食べる事を考えましょう。
今回使うのは、美しい脱皮直後のメス成虫です。
白い。美しい。
昆虫は、陸上での外皮の硬化に色の出る化学反応を使っているので、
残念ながら茶色っぽく、黒っぽくなってしまいます。
しかし脱皮直後は別です。色素の少ない、透明感のある美しい姿は
食感もよく、食べごたえもあり、最高の時期だと思うのです。
しかし、
ゴキブリにはゴキブリらしい臭さがあります。
ケミカルというか、ムレ臭というか、ゴキブリ臭とも呼べますが。
集合フェロモンだそうで、ゴキブリのフンからも同様のニオイがします。
以前にチョコを食べさせた時、そのニオイが低減したことから、
何らかの食事制限によって多少変動はさせられそうです。
今回目指すのは
「ゴキブリ臭い、けれどもゴキブリクサおいしい」という未来の料理です。
そして、以前の粉末バッタが粉末としての利点を活かしたことをふまえて
体のままであることを活かした料理とします。
「注入」です。
羊の腸の皮に他の畜肉を詰め込むという黒魔術のような料理、
ソーセージと言われるものは今では世界中に普及しています。
単なるひき肉つくねでは得られない、パシッとした食感が
その悪印象を払拭してくれる「おいしさ」なのでしょう。
そして、脱皮直後のゴキブリは柔らかく、中身が結構スカスカです。
脱皮時にしか外皮の表面積は増えませんので、
外骨格生物は脱皮すると先に外の大きさを決めてしまい、
後から中が充実してきます。
そのため、最も身が張っているのは脱皮直前なのです。
余談ですが、外皮が比較的柔らかいセミ幼虫は
肉がしっかり詰まっていて圧力の高い脱皮直前のものが一番おいしく、
脱皮直後のものは美しいですが、
濡らしたティッシュのようにやや味気なくなってしまいます。
話を戻します。
今回注入する液体は
「既存の料理に使う調味料」の組み合わせで作ります。
ムレ臭のような香りはニンニク、
フルーツのような華やかな香りはワインビネガー
注入する都合からニンニクのワインビネガー漬けを作りまして
苦味要因としてチーズ(材料にセルロースを含まないもの。含んでいると注射器が詰まります)
そして結着剤として卵を入れ、「ゴキブリ臭く」仕上げます。
ダイソーで売っている化粧品小分け用の注射器を使い
脱皮直後の余裕のある外皮に対して、尻から体側面にたっぷり注入します。
深海のヨコエビのような感じになりました。
これをバターと胡椒で低温じっくりと焼き上げ
トマトとアイスプラントで仕上げ。
おいしい。。確かにゴキブリ臭いけどだがそれがよい。
プリっとふくらんだ腹部はパンと張り
チーズとニンニクの旨味がじわっと。
フレッシュトマトのジューシー感とアイスプラントのさくっとした食感と酸味。
いずれもすばらしい!おいしい!
マダゴキの新たな可能性を感じました。
同時に「言語化=情報化」と「見立て=抽象化」のパワフルさも。
ゴキブリの味の特徴を言語化し、他の食材で見立て、
相性をマッチングして作っていく、創作料理のエキサイティングな過程を体験できました。
プラモデルで言うところのキット改造からフルスクラッチへ。
昆虫料理を既存の料理のアレンジではなく、フルで創作する段階に来たのかもしれません。
思いは思いのままで。と歌ったのはケミストリーですが
食材のにおいはにおいのままで楽しもう、というのが今回の趣旨です。
単に消そうとするだけでは
その臭みのない他の食材の下位互換でしかなくなってしまいます。
消すのではなくちょうどいい具合に弱めて他の食材と合わせる。
フードマッチングとかフードペアリングというイメージがいいですね。
何と合わせるか、もちろんわが家の大黒柱、ゴキブリです。
以前から、生ごみ処理機として
マダガスカルゴキブリを1kgほど飼育しています。
飼育容器の開発も第6世代に突入し
強制的な換気装置と、フン自動分離機構を備えたので
半年に一度ぐらいの大掃除をする以外はノーメンテ。
彼らの天敵はカビとハエです。
どちらも抗菌剤を出して高湿度に対応する生物です。
どちらもゴキブリの健康を著しく阻害するらしく、
死体にカビもしくはハエが増え、更にゴキブリが死ぬという
負の虐殺スパイラルになってしまいます。地獄絵図です。
ゴキブリの養殖経験の長い爬虫類愛好家の方は
生ごみなどの湿度リスクを考えて
乾燥した配合飼料と水のみを与えているそうです。
ともあれ、
マダゴキによらず
彼らのヒト住居への適応能力は高いものがあります。
よく誤解されがちなのが「ゴキブリは最強の生物」みたいなのです。
テラフォーマーズも影響しているかもしれませんが。
これは全くの誤解です。
「ヒトの好みのままに創りだした環境がたまたまゴキブリにも適していた」
のです。
決して他の昆虫よりとりたてて優れているわけではありません。
ではなぜ、
ゴキブリはヒトの住居に適応できたのでしょうか。
まずは
近年のヒト住居について、もう少し考えてみましょう。
まず野外の昆虫が入ってきません。
ゴキブリは特別な防御機構をもたないことから
野外では格好のエサとして消費されています。
オオゲジやアシダカグモなどの翅をもたない徘徊性の節足動物のエサです。
ですが今の密閉性の高い住居では人の出入りが唯一の侵入のチャンスですが
警戒心の強い大型の捕食者は、なかなか入ってきてくれません。
ヒトは無意識ですが、彼らにとって我々は決して勝てない捕食者なのです。
次に、優れた空調です。
ヒトに限らず、従属栄養生物はガス交換をしないと窒息してしまいます。
ですが、ふつう、ガス交換は同時に熱の移動も伴います。
なので、本来であればガス交換と、保温、保冷は
相反するものなのです。
風通しが良くて夏暑い、冬寒い家
風通しが悪くて夏涼しく、冬温かい家
というトレードオフではなく
夏涼しく、冬暖かく、かつ風通しが良い
という空間を少ない電力エネルギーで実現しています。
空調、つまり熱交換器の実用化によって、
ヒトの住居は圧倒的に住みやすくなりました。
そして断熱のよい構造体。鉄筋コンクリートですね。
ゴキブリは住居がビル化する前は、
家を通過するごくありふれた昆虫たちの一種でした。
ところが、気密性が高く、乾燥したビルに、
有機物を大量に置く、という
選択的ゴキブリ誘引トラップが設置されたことで
我々はゴキブリを誘引され、屋内で養殖して
そしてそれに人々が驚く、という
不幸なマッチポンプを生み出してしまったのです。
さて、
ゴキブリといえども、マダゴキはマダガスカル出身ですので、
日本人とマダガスカル人どころではなく、キツネザルぐらい遠縁のものを
ゴキブリという和名でくくって嫌がってしまうのも、なんだかかわいそうなものです。
なんとか印象を挽回する方法はないものか。
やはり、
彼らをおいしく食べる事を考えましょう。
今回使うのは、美しい脱皮直後のメス成虫です。
白い。美しい。
昆虫は、陸上での外皮の硬化に色の出る化学反応を使っているので、
残念ながら茶色っぽく、黒っぽくなってしまいます。
しかし脱皮直後は別です。色素の少ない、透明感のある美しい姿は
食感もよく、食べごたえもあり、最高の時期だと思うのです。
しかし、
ゴキブリにはゴキブリらしい臭さがあります。
ケミカルというか、ムレ臭というか、ゴキブリ臭とも呼べますが。
集合フェロモンだそうで、ゴキブリのフンからも同様のニオイがします。
以前にチョコを食べさせた時、そのニオイが低減したことから、
何らかの食事制限によって多少変動はさせられそうです。
今回目指すのは
「ゴキブリ臭い、けれどもゴキブリクサおいしい」という未来の料理です。
そして、以前の粉末バッタが粉末としての利点を活かしたことをふまえて
体のままであることを活かした料理とします。
「注入」です。
羊の腸の皮に他の畜肉を詰め込むという黒魔術のような料理、
ソーセージと言われるものは今では世界中に普及しています。
単なるひき肉つくねでは得られない、パシッとした食感が
その悪印象を払拭してくれる「おいしさ」なのでしょう。
そして、脱皮直後のゴキブリは柔らかく、中身が結構スカスカです。
脱皮時にしか外皮の表面積は増えませんので、
外骨格生物は脱皮すると先に外の大きさを決めてしまい、
後から中が充実してきます。
そのため、最も身が張っているのは脱皮直前なのです。
余談ですが、外皮が比較的柔らかいセミ幼虫は
肉がしっかり詰まっていて圧力の高い脱皮直前のものが一番おいしく、
脱皮直後のものは美しいですが、
濡らしたティッシュのようにやや味気なくなってしまいます。
話を戻します。
今回注入する液体は
「既存の料理に使う調味料」の組み合わせで作ります。
ムレ臭のような香りはニンニク、
フルーツのような華やかな香りはワインビネガー
注入する都合からニンニクのワインビネガー漬けを作りまして
苦味要因としてチーズ(材料にセルロースを含まないもの。含んでいると注射器が詰まります)
そして結着剤として卵を入れ、「ゴキブリ臭く」仕上げます。
ダイソーで売っている化粧品小分け用の注射器を使い
脱皮直後の余裕のある外皮に対して、尻から体側面にたっぷり注入します。
深海のヨコエビのような感じになりました。
これをバターと胡椒で低温じっくりと焼き上げ
トマトとアイスプラントで仕上げ。
おいしい。。確かにゴキブリ臭いけどだがそれがよい。
プリっとふくらんだ腹部はパンと張り
チーズとニンニクの旨味がじわっと。
フレッシュトマトのジューシー感とアイスプラントのさくっとした食感と酸味。
いずれもすばらしい!おいしい!
マダゴキの新たな可能性を感じました。
同時に「言語化=情報化」と「見立て=抽象化」のパワフルさも。
ゴキブリの味の特徴を言語化し、他の食材で見立て、
相性をマッチングして作っていく、創作料理のエキサイティングな過程を体験できました。
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プロフィール
HN:
Mushikurotowa
HP:
性別:
男性
趣味:
昆虫料理開発
自己紹介:
NPO法人食用昆虫科学研究会 理事長
このブログは以下に移動しました。http://mushi-sommelier.net
2008年「なぜ昆虫に食欲がわかないのか」研究を開始
食べたらおいしかったので「昆虫食で世界を救う方法とは」に変更。
昆虫の味の記載から、昆虫の特性を活かしたレシピの開発、イベント出展、昆虫食アート展覧会「昆虫食展」まで、
様々な分野の専門家との協力により、新しい食文化としての昆虫食再興を目指す。
2015年 神戸大学農学研究科博士後期課程単位取得退学
テーマは「昆虫バイオマスの農業利用へむけたトノサマバッタの生理生態学的解析」
2018年よりラオスでの昆虫食を含めた栄養改善プログラムに専門家として参加
このブログは以下に移動しました。http://mushi-sommelier.net
2008年「なぜ昆虫に食欲がわかないのか」研究を開始
食べたらおいしかったので「昆虫食で世界を救う方法とは」に変更。
昆虫の味の記載から、昆虫の特性を活かしたレシピの開発、イベント出展、昆虫食アート展覧会「昆虫食展」まで、
様々な分野の専門家との協力により、新しい食文化としての昆虫食再興を目指す。
2015年 神戸大学農学研究科博士後期課程単位取得退学
テーマは「昆虫バイオマスの農業利用へむけたトノサマバッタの生理生態学的解析」
2018年よりラオスでの昆虫食を含めた栄養改善プログラムに専門家として参加
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