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今回は長めです。書き貯めていて放置していたのですが
これを機にまとめようと思います。

エリサン  Samia cynthia ricini


エリサンは日本にも分布する「シンジュサンSamia cynthia pryeri」を
原種として、インドで家畜化されました。野生には分布しません。
絹用のカイコ=家蚕と対比して「野蚕」の一種とされます。
大型で病気にも強く、飼いやすいだけでなく
カイコよりはるかに美味いので、是非飼育してほしい家畜動物です。

シンジュサンはコチラ。


エリサンの方が色が白く、シンジュサンのようなパステルカラーの配色や
トゲの先のこんぺいとう状の白い粉もありません。
シンジュサンは年2化し、秋に越冬蛹を作るのですが、
熱帯から亜熱帯で飼育されてきたエリサンは休眠しない、
という地理的変異を示します。

そのためエリサン飼育は冬も暖めながら継代しなくてはいけません。
また、成虫は飛べないので、
日本では野外に出してもすぐに死んでしまうでしょう。
ただ、シンジュサンとの雑種を作ることができるので、
脱走しない、シンジュサンが侵入しない屋内での飼育が望ましいです。

エリサンはシンジュ・ヒマ・キャッサバ・クスノキなどの数多くの食草を食べます。
カイコより大型になり、終齢は大量に食べるので、近所に採集可能な木があることが必須です。
今回はシンジュを使いました。

シンジュは別名ニワウルシと言われますがウルシとは無関係です
朴葉や肉ちまきの笹のように肉と相性が良い
食欲をそそる蒸れた香りがあり、エリサンにもその香りが生きています。
タンパクながら肉のようなコクとうまみが感じられる見事な食用昆虫です。
ちなみに、シンジュは成長が早いので、もしエリサンを飼いたい場合は
今のうちから庭に植えておくと数年で養殖可能になると思われます。

今回は 5月16日に卵をいただき
比較のためシンジュとクスノキでしばらく育ててみました。

クスノキは樟脳の原料として知られ、「防虫剤臭い」ことでよく知られています。
こんな化合物です(wikiより)

防虫効果のため、クスノキを食害する昆虫は多くありません
有名なものだとアオスジアゲハぐらいでしょうか。
写真の3〜4齢幼虫はこの後爆発的な食欲をみせるので、

間引きをし、食べ比べてみました。(6月12日)


エリサン幼虫(シンジュ)
シンジュの味があり、小松菜の雰囲気。シンジュサンとほぼ同じ味。
茹でるとシンジュの粒感が残るので、消化管内容物を取り出すのがおすすめ。揚げるとそっけない味で風味が飛んでしまう。


エリサン幼虫(クスノキ)
まったく楠の樟脳の匂い。美味しく食べられない。味も苦味があり、食用にしたくない。
消化管内容物を除いてもクスノキ臭さは残ってしまう。樟脳が脂溶性で体内に拡散してしまっているからかと。

4/5ほど間引いた後、シンジュで前蛹まで育てました。クスノキで育てるのはもうめげました。
美味しくない昆虫を育てるのはストレスです

味見 5齢(終齢)
エビガラスズメと同様に外皮が大変硬い。内部の未消化物も茹でただけでは味が強く、
不味くはないが美味しい段階ではない。
前蛹
さすがの美味しさ。甘みと旨味の丁度良い塩梅。外皮も弾力が減り歯切れよい。
しかしワンダリング時はタイミングが早すぎるようだ。
ヤママユガ科特有のジグザグに発達した絹糸腺がゴムのように口に残ってしまう

ので繭形成後、サナギ脱皮の前がオススメ。


重さ比較
4齢、5齢(終齢)前蛹 蛹をそれぞれ一個体ずつ体重測定しました。

一番大きく取れるのは終齢(7.6g)ですが、先ほど味見したようにあまり美味しくありません。
また、蛹よりも前蛹の方が外皮の食感や味を含め私の好みなので、
「繭形成後、蛹脱皮前」というわずか数日が収穫期として最適と思われます。


一巡目(6月21日前蛹+蛹178g 繭29g収穫)は
時期を逃して蛹を多く収穫してしまったのですが

二巡目はうまく収穫できたと思います。


今回のように
美味しい段階を選ぶと、必然的に繭もついてきます。そのため繭の利用も考えましょう。

飼育されている地域では、エリサンの利用は食用がメインではなく繊維として利用されます。蛹は副産物です。
カイコの生糸と異なり、一本の糸にばらすこと=糸繰りはできないので
綿花のように短い糸をより合わせて=紡績して糸を取り出します。
この繭、せっかく採れたのでなんか工芸品にしたいと思っています、また後日ご報告します。


フン茶
カイコのフン茶によく似ているが香りがやや良いかと。
少しクセのあるプーアル茶の香り。中国茶系で好き嫌いがありそう。
やっぱりバッタ茶が親しみやすい最高の味だなぁ。



料理開発
エリサングラタン
エリサンカレー
エリサンと秋の虫パエリア


9月8日現在、二周目の飼育が終わり、
成虫が卵を生んでいます。三周目は冬にかかってくるので
残念ながら常緑樹クスノキを与えての継代になってしまうかも。
匂いを消す方法があれば探しておきます。


エリサンの有望な点として、毒植物の解毒(分離)が挙げられます。
現地では「キャッサバ」をエサとして飼育しているようです。
キャッサバはタピオカ澱粉の原料として日本では有名なイモで、
毒を含み成長が早いことから農薬要らずで熱帯地域で多く栽培されています。
2002年の生産量は全世界の生産量は1億8000万トンと、イモ類ではじゃがいもに次いで二位と
実はすごいイモなんです。


キャッサバから澱粉を取る場合は、何度も水に晒すなどの「毒抜き処理」が必要になります。
当然エリサンも葉に含まれる毒に耐えながら育つのですが、体内へ取り込むことはなさそうです。その時、消化管には毒の葉が詰まっているので、幼虫は食べられないのですが
鱗翅目の前蛹と蛹は消化管内容物を排出して、腸内を空っぽにするので、
その際に毒性分の分離が完了しているようです。


こうして、エリサンの前蛹と蛹が
タイの養殖エリサンがトムヤムクン味の缶詰として売られていました。

パッケージデザインがモダンです。


こう考えると
「有毒植物と解毒」は将来の農業を考える上で
実は重要なキーワードではないかと思われます。

ナス科の作物は植物体に毒を持つことが知られています。
特にじゃがいもは近年の育種によって毒のない種がつくられましたが
原産地南米ではイモにも毒のある種を未だに利用しています。
寒暖の差を利用して凍結解凍を繰り返し、水溶性の毒性分を追い出すことで
乾燥芋「チューニョ」を得るのです。

「どこに毒があり、どうすれば消せるのか」
という情報は、虫の食害や病気を防ぐ上で重要でしょう。

虫と作物が共存する上でも毒成分による「住み分け 食べ分け」をすることで
コントロールできるのでは、と考えられます。

生物由来の毒の良い点は、
必ず分解者がセットで存在する点です。
肝臓で分解するヒトも優秀な分解者といえるでしょう。

ヒトが使う毒として殺虫剤や抗生物質が挙げられますが、
これらの自然界に殆ど分布しない物質の大量使用はその分解者もマレなため、残留が問題になっています。太陽の紫外線は強力な分解者ですが土中に残留したものは微生物などの生物的分解者に頼る必要があるでしょう。
そう考えるとbt毒素は生分解性、という意味では有用な毒といえます。

遺伝子組み換えの是非とは別に「生物毒の有効利用」という観点でも、未来の農業を考える必要が有ると思われます。


その中で、昆虫の有効な使い方も更に見えてくることでしょう。

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無題
クスノキで育った個体が蛹になっても樟脳くさいか気になります。続編を楽しみに待ちます♪
smallcreature 2013/11/18(Mon)21:25:51 編集
Re:無題
そうですね。蛹まで持ち越さなければ美味しくいただけそうです。
調べてみます!
【2013/11/27 22:23】
Mushi_Kurotowa
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HN:
Mushikurotowa 
性別:
男性
趣味:
昆虫料理開発
自己紹介:
NPO法人食用昆虫科学研究会 理事長
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2008年「なぜ昆虫に食欲がわかないのか」研究を開始
食べたらおいしかったので「昆虫食で世界を救う方法とは」に変更。
昆虫の味の記載から、昆虫の特性を活かしたレシピの開発、イベント出展、昆虫食アート展覧会「昆虫食展」まで、
様々な分野の専門家との協力により、新しい食文化としての昆虫食再興を目指す。

2015年 神戸大学農学研究科博士後期課程単位取得退学
テーマは「昆虫バイオマスの農業利用へむけたトノサマバッタの生理生態学的解析」
2018年よりラオスでの昆虫食を含めた栄養改善プログラムに専門家として参加
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