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きっとオオゲジはおいしい、と思いながらのようやくの出会いです。
今回は他の昆虫を目当てで夜間採集に行ったのですが、
目的のものはとれず、でもオオゲジは二頭とれました。
ゲジは偽複眼、という単眼の集合体を一対もつことから
かわいらしいつぶらな目をしています。
長い多くの脚に隠れて見えませんが
竹林の隙間から見えるような可愛らしい顔。すばらしいですね。
味見のまとめでも気づいたのですが
「食べる前の見た目の印象」と
「食べておいしいとわかってからの見た目の印象」
は大きく変わってしまいます。
ゲジというとムカデの仲間で牙があって、動きが早くて足が多いし
すぐとれるから触るのが怖い。触って殺してしまうのも怖い、
という感じで、
どうにも猫の背みたいな「掴んでいい部分」が見当たらないんですね。
どう触っていいかわからない、というのはなんだかお近づきになりにくいです。
ところが、一度おいしいことが分かってしまうと、
そんなのは
大した問題ではなくなってしまいます。
食べて克服すること、というマウンティングによる自分の優位性が
確かめられたことで、
相手を過大評価しなくてすむようになるのかもしれません。
「苦手な虫を食べて克服」という昔の辞書の暗記のようなことが
将来起こるかもしれません。
そして、ゲジというネーミングも悪いと思います。
ゲジという濁音二音だけ、バカが考えたような短い名前。
食感も悪そうで、ジャリジャリしそうな名前ですよね。
オオゲジといういかにも大きすぎるような印象をあたえるのも良くありません。
私たちが食べる動物性食品のうち、オオゲジは小さい方です。
そこで、
コガタリクアノマロカリス
というかっこいい名前をつけました。
学名で奇妙なエビ、という意味を持つアノマロカリス、
彼らはただデカくて海にいるだけですから
イセエビと比べてもあんまり奇妙でもありません。
陸上で捕食者として走り回る彼らこそ、「奇妙なエビ」でしょう。
食欲をそそらない和名、というのもこれ以外にも改訂していいかもしれません。
ということで、味見をしてみましょう。
茹でるとあっという間に自切し、胴体だけになってしまいました。
足先はゼンマイのように丸まります。
色は不透明になり、青みがかりました。
味見
ゼンマイのように丸まった足先の食感はゲジよりだいぶ固い。
イモムシのようになった胴体はシコシコとした食感と芋のような甘い香りとやさしい甘み、
そしてエビに負けない強い旨味があって最高。あぁうまい
奇妙なエビ、コガタリクアノマロカリス、
特に苦手な方は、その克服にいかがでしょうか。
ご無沙汰しております。
休眠中の蟲喰ロトワです。
最初に悪いニュースから。もう半年、休眠を続けなくてはなりません。
ほとほと昆虫学者としての実力と、将来性のなさを痛感しておりますが、
自分が言い出したことですし、
とにかく形にするべく、在籍期間満了の最後の半期をやり遂げようと思います。
休眠中ですが一つだけ、
一年がかりのプロジェクトがありましたので、
軽く記事にしておきます。
始まりは昆虫食仲間のムシモアゼルギリコさんが
つぶやいた一言からでした。
内山さんや蟲喰トロワ先生は、本日どんな虫チョコをもらったのじゃろうか。
— ムシモアゼルギリコ@むしくい (@mushikui_net) 2014, 2月 14
そうです。バレンタインデーです。残念ながら私はギリコさんが期待するような
チョコをもらえませんでした。
生命保険の方が研究室にチラシと一緒に置いていったチョコを頂いただけです。
もちろん自分に保険などかけるはずもないので、
私は顧客・勧誘対象ですらありません。
そこで思いついたのです
「一年後の自分にチョコを贈ろう」
ギリコさんが納得するような、昆虫食研究者らしいチョコを。
友チョコ、ならぬ俺チョコといった感じでしょうか。
そこでこんな話を思い出しました。
昆虫食関係のどっかの本にあったと思うのですが。
「コオロギに食味の良い餌を食べさせて、フレーバーコオロギなどを作っても良いかもしれない」という話。(うろおぼえにつき出典ご存知のかた、おしえていただければ。)
これはすばらしい。
ということで、バレンタインデーらしくチョコフレーバー昆虫を作りましょう。
とはいえ、今までに揚げセミ幼虫のチョココーティングや
セミ成虫♂の鼓室へのチョコ注入、
クリムシチョコなど、チョコ昆虫はありふれた調理法です。
なので、もう一歩攻めてみることにします。
昆虫は養殖に大きな期待がかかっていますので、
一年がかりで、チョコで育てた昆虫を作るのです。
残念ながらコオロギは
チョコが体に合わないらしく、食べてくれません。
やはり、広食性のゴキブリが最適ではないか、と考えました。
一年前の開始時には、
マダガスカルゴキブリ アルゼンチンモリゴキブリ
オレンジヘッドローチの三種しか飼育していなかったので、
この三種、体格の近いものを1頭ずつ用意しました。
そして、22gのチョコと水を入れ、開始です。
そして一年後、どうなったでしょうか。それは後編で。
当ブログでは、
マダガスカルゴキブリ以外の味見を紹介していませんでしたが
ゴキブリはペットの生き餌として、ペットそのものとして、多くの種が輸入され、
飼育愛好されています。
チョコ作りにはとりあえず3種を選んだのですが、
数カ月前に、とあるブリーダーの方から理由があり
多くの種をお譲りいただき、味見をしました。
複数種を食べ比べることで、「ゴキブリの味」というものを概観し、
今後の指針にしようとおもいます。
マダガスカルゴキブリは以前に食べましたのでこちら(前編 後編)
続いてオレンジヘッドローチEublaberus prosticusの羽化直後個体。
飼育環境下では臭いが味はどうか。羽;クニュっとした食感とシコシコした歯ざわりが美味しい。昆虫の羽ではかなり美味しいレベル。頭部、芋系の香りと粒感のあるタンパクな味。全くエグみがない。胸部かなり美味しい。やはりサツマイモ系の香り。見た目できになるトゲも柔らかく、問題なく飲み込むことが出来た。腹部。やはりゴキブリ臭。集合フェロモンの強い匂い。味というかニオイがダメ。調理前に腸を切除するか、揚げて揮発させる必要があり。
アルゼンチンモリゴキブリ(デュビア)Blaptica dubia
外皮が比較的柔らかく食べやすい。茹でると少しゴキブリ臭。揚げればいけそう
ちなみに、このデュビアは、
昨年の蟲フェスでデュビアジャパン http://dubia.jpさんが
料理コンテストに使用し、脱皮直後の虫をつかったアヒージョ「ゴキージョ」を
出品し、大変おいしくいただきました。
野菜メインの飼育をすることが、美味しさの秘訣だそうです。
オガサワラゴキブリ
Pycnoscelusの1種。オガサワラG?頂いた先に聞いてみねば。 バークチップで育てたもの。茹でて味見。シャクシャクしてとても美味しい。 嫌なニオイは全くない。昨日食べた美味しいオオGのおかげか、躊躇なく挑戦できる。 pic.twitter.com/G55gRXpoRQ
— 蟲喰ロトワ(むしくろとわ) (@Mushi_Kurotowa) 2014, 12月 13
Pycnoscelusの1種脱皮直後を。こちらは土系の高湿度で維持。丈夫でよく増える。これも種を聞いておかねば。 少し臭みがあって惜しい。湿度によってもニオイが変化する可能性。シロアリに近い性質のものが一番美味しいかもしれない。 pic.twitter.com/XIKYqnXFzv
— 蟲喰ロトワ(むしくろとわ) (@Mushi_Kurotowa) 2014, 12月 13
オオモリゴキブリ
オオモリG Symploce gigas gigas ヒマワリの種のような模様と大きさ。華奢で壁を登るので容器を選ぶが、つかみやすく取り扱いはわりとラク。味はかなり良い。やはり朽木食性の成長の遅いGの方が味が良い傾向がありそう。 pic.twitter.com/8NYfQIvwIZ
— 蟲喰ロトワ(むしくろとわ) (@Mushi_Kurotowa) 2014, 12月 15
こちらは採集品、オオゴキブリ
日本の森林性のG Panesthia angustipennis spadica 動きが遅く、ゴツゴツしてカッコ良い。 夏から飼うも卵を産まず、弱ってしまったので茹でて味見。 とても美味しくフェロモン臭もない。味はシロアリに近い。 pic.twitter.com/S212W4ZNsa
— 蟲喰ロトワ(むしくろとわ) (@Mushi_Kurotowa) 2014, 12月 12
カプチーナ、と呼ばれる種
Ergaula capucina カプチーナ、というかわいい名前のG幼虫。 成長が遅く、乾燥気味で、野菜食性が強いので、期待したが ちょっと匂う。ボリュームがあり、外皮も柔らかく味はそこそこ良い。 砂が体表につくのでよく洗うと良い。 pic.twitter.com/MFYXZ7e4sU
— 蟲喰ロトワ(むしくろとわ) (@Mushi_Kurotowa) 2014, 12月 15
そういえば、やきそばにトッピングするとなんたら、という騒ぎもありましたね。
期待された気がしたので夕飯はペアでヤング(幼虫)なGの焼きそば。すりおろし自然薯を注入し、腹側を覆いキチナーゼ反応を期待したが時間が短く食感は変化せず。内部はもっちりしたので一部成功。ソースがからみにくく下味は強めにすると良い。 pic.twitter.com/KHvzs1UO7n
— 蟲喰ロトワ(むしくろとわ) (@Mushi_Kurotowa) 2014, 12月 11
当然ですが、原材料に記載されていない素材が入っていた場合、食品の製造工程になんらかの問題があることが示唆されるため、
保健所に通報し、検査することが妥当でしょう。
エビ・カニアレルギーのある方の交差反応も心配です。
ただ、同時期にチェーンファミリーレストランでのo-157食中毒があり
その混入経路が不明のまま、当該店舗のみ3日間の営業停止処分だったことを考えると
同社の商品を全回収することは、
その危険性と照らしあわせてみると大きすぎる反応にも見えます。
余談ですが、
彼らが本格的に嫌われたのは、ビル化と関連していると考えられます。
「害虫の誕生」という本は
ハエや蚊などの、衛生害虫の成立と、
政府の国力増強政策が関連していることを示した良書ですが、
オビに
「なぜゴキブリは嫌われるのか」と
あるような、ゴキブリの害虫としての成立過程には
ここ数十年の現代の歴史がフォローされておらず、
もう少し説明が必要に感じます。
彼らは昔から木造家屋への侵入はありましたが、
「コガネムシは金持ちだ」という歌のように
有機物が豊富な、金持ちの家にしか来ない昆虫で
とりたてて嫌われるものではなかったようです。
数十年前でもハエや蚊、その他迷いこんでくる雑多な昆虫のうちの一つでしかなく
室内温度が氷点下になるような隙間風の多い日本家屋においては、
虫達は冬にはいなくなったものでした。(越冬するカメムシなどはいたようです)
平行して、
1970年代以降かねてからオフィスにしか使われてこなかったビルが
多目的化し、飲食店や住居として使われ始めました。
ビルは木造一軒家に比べて気密性が高く、空調によって
常に乾燥し、一年中温度が安定している、膨大な空間といえます。
そこからは、その土地に生息していたほとんどの生物が追い出されたのです。
ヒトを由来とする湿潤な有機物は、
公衆衛生の観点から、滞留させないことで、下水を整備し、
ハエや蚊の発生を抑制しました。
そんな中、ゴキブリは乾燥に耐え、温かいビルに適応しながら
わずかな有機物を齧ってゆっくりと成長し、
ビル内の環境への適応を果たしたのです。
彼らはそもそも衛生害虫でないので、
ビル内で殺虫剤を使うことは本来の用途でありません。
そのため、ハエや蚊の発生が抑制されたビル内の王者となったのです。
その根拠として、
ゴキブリ用途の業務用(害虫駆除業用)
殺虫剤が登録されたのが昭和53年。
http://www.pref.chiba.lg.jp/eiken/eiseikenkyuu/kennkyuuhoukoku/documents/15-p1.pdf
殺虫剤は農薬ですので、薬事法により用途(=目的昆虫の名前)が決まっています。
ビルに適応したゴキブリは、おそらく、当初殺虫剤を使用できなかったのです。
そこから見えてくるのは
「ビル管理者がゴキブリの苦情を害虫駆除業者に言い始めてから」
ゴキブリは嫌われ始めたといえるでしょう。
はたして、ゴキブリは
ビルというゴキブリに適した環境を提供しておきながら
そこに増えたゴキブリを害虫認定するというマッチポンプによって
日本一嫌われる昆虫の座をヒトによって与えられたといえるでしょう。
そのため、彼らはハエや蚊のような重篤な感染症の中間宿主となることはなく
感染症の運搬者となる可能性が指摘されているものの、それは潜在的なもので
カラスやタヌキ以下の低いリスクしかないものです。
徹底して駆除し、殺虫剤耐性ゴキブリを産むほどではないといえます。
今や感染症発生時のハエや蚊の駆除と同等の徹底ぶりです。
これでは、いざ彼らを媒介とする感染症が蔓延したときに、
殺虫剤が有効な封じ込め手段ではなくなってしまいます。
例えば病院では、抗生物質の使用を制限しており、
最も強力なバンコマイシンの利用は「奥の手」でありかなり慎重です。
それは耐性菌の発生を助長するものであり、院内感染の蔓延原因となるからです。
幸いなことに、というか不幸なことに、
そもそもハエや蚊ほど感染症リスクが高くないので
殺虫剤耐性ゴキブリが発生している現在も、
直接的な感染症のひろがりはありません。
また、
ニューヨークのゴキブリは、味覚が進化している可能性も指摘されています。
アメリカのチャバネGが駆除剤に塗られた甘味を感じないよう変化したという話。→ http://t.co/IdYEEfse4k
— 蟲喰ロトワ(むしくろとわ) (@Mushi_Kurotowa) 2014, 12月 13
そもそも、根拠の曖昧なまま始まったゴキブリ駆除の要求は「ほどほど」を失い、もはや
ゴキブリそのものよりも怪物となっているような気がします。
おそらくですが、殺虫剤の広告において
虫への嫌悪感を煽るマーケティングは、
薬事法の「優良誤認」を防ぐため、と思われます。
薬剤は消費者に効果を誤認させるような広告を使うと、
厚生労働省から是正勧告が入り、回収を指導されてしまいます。
そのため薬剤の効果を広告するよりは、対象となる昆虫の嫌悪感を煽るほうが
効果的であり、薬事法の面からみても安全だったのでしょう。
業務用殺虫剤から、家庭用殺虫剤への変遷は又の機会に紹介します。
もしその煽りによって、極度のゴキブリ嫌いになってしまった人がいたとしたら
ゴキブリに対する加害者というより、ゴキブリと共に、被害者といえるのかもしれません。
さて この話は
仮説や妄想を多く含んでおり、検証が必要な「言い過ぎな話」が多くあります。
なので、今の段階で、この話をさも教科書に載っている正しいことのように、
引用を明記しないまま拡散しないでください。
紹介、引用する場合はこのページごと紹介して頂くと、
私に反論がきちんと返ってきますので助かります。
少し暗い話になりました。
後半は明日、書き上げます。チョコで一年育ったゴキブリたちは
はたしてどんな味に仕上がったのでしょうか。
オオミノガ Eumeta japonica
Eumeta variegata 2011年より学名が統一されたそうです。
以前の記事で、地域によっては絶滅が危惧されているものの、
味見をして後悔していたのですが、
その後オオミノガ自体が移入種らしいとのこともあり
専門家同士でも保護すべきか意見が別れるらしいとお聞きしました。
保全の意思決定は専門家に任せるのはもちろんですが
私のようなアマチュアは「必要以上に採集しない」
「採集した場合は学術的価値の高い状態で保存する=ラベル付きの標本にする」
ことをきちんと自覚しておくべきだと思います。
そのためオオミノガについては、
味見以降食べる予定はありませんでした。
ところが
その後、虫cafe2014にて鱗翅目の味見について発表したところ、
ミノガの専門家、新津修平博士がお声をかけてくださいました。
「オオミノガメス成虫の味見をしてもらえませんか」
なんと共同研究(?)の申し出。わくわくします。
オオミノガの興味深い生態を教えていただきました。
1,ミノガのメスは一生ミノから出ず、オスがフェロモンに引き寄せられて交尾に来る
2,メスの羽化は蛹の上部が外れるだけで、殻を脱がない。外れた上部からは頭部が顔を出す。
3,メスの交接孔は頭部付近にあり、オスはミノの下部から交接器を挿入し、ミノの上部で
折り返し、交接孔へとアクセス、交尾する。
4,交尾後のメスは数日後にミノの中に卵を放出して、ぺちゃんこになってしまう。
いやー理解するのに時間がかかった。(というか何度も間違えた。)
ミノを切り開いたところ。右が上部
中を取り出してみた。右が頭部。頭を上にしてミノに入っている。
羽化。オスが下からアクセスするので、下部だけ開くものと勘違いしていた。
予想外に上部が開いたので、ミノに戻す時間違えたかと。
正しくは左が頭。 ミノは右が上部なので羽化時は逆方向。
尾部だと思っていた頭部。大量の毛が出てくるが頭っぽくない。
交接器に見えていた。
蛹の殻の残りを切り開く。皮が薄く、傷つけてしまった。
左が頭部。
茹でた後。内部がぎっちり卵だということがわかる。
ホタテと比較。精巣と食感がよく似ている。
味見
蛹の殻を取り去った表皮はきわめて薄く繊細。歯をあてたときのプチッと感はほとんどなく、香る木の香りとわずかな収斂味。上質な栗のような素朴な甘み。卵のつぶはいずれもやわらかく、口の中でほぐれ、スクラブ感のある食感ととも広がっていく。抜群。栗スイーツとして商品化したいぐらい。これは美味い。オオミノガヤドリバエの気持ちがわかってしまう。
今回は新津修平博士に詳しいアドバイスを頂きました。
2011年に学名が更新されていたことも教えていただきました。
ありがとうございました。
さて、
今回は味見、という形で研究者とつながることができました。
やはりヒト一人の常識では、昆虫を理解することは困難です。
オオミノガ一種をとっても、その発想と実践は、
ヒトの想像力を易易と越えていきます。
しかも、
昆虫は100万種という膨大なアーカイブとして存在し、
それらにきちんとアクセスするには、一人の力ではどうにもなりません。
つまり、
「昆虫アーカイブにアクセスするには、目的に応じた人的ネットワークを構築するしか無い」
といえそうです。
つまり「ある地域で、ニーズに応じた昆虫食を提案できるネットワークを構築した者」
が、いわゆる昆虫食研究者、といえる存在になるのではないでしょうか。
これは今までの
「研究者不在」の養殖昆虫ベンチャーを見ていて気づいたことです。
彼らは「効率」をウリ文句に、多くの投資を集め、投資が多いほどその効率が
上がることを示すことで、会社を維持しています。
ところが、
その規模が十分に巨大になった時、
既存の昆虫食文化はどうなるでしょうか。
生態系はどうなるでしょうか。莫大な投資を蹴ってそれらを守る経営者は
いるのでしょうか。
昆虫食を進めるにあたって、
やはり、昆虫研究者を手放すべきでない、
と思います。
それは
タイでのコオロギ養殖を軌道に乗せている
応用昆虫学の教授を見ていても思います。
研究者を通じて、生態系に考慮した形で、
更に社会の昆虫への偏見を減らしていくような
「研究者ネットワーク型・課題解決型の昆虫研究体制」を作るべきではないか、
と考えています。
その時、
日本という教育の行き届いた、膨大な標本をもち、多くのアマチュア昆虫研究者を
抱え、しかも昆虫食文化のある、特異な国の真価が発揮されるのではないでしょうか。
カラスヨトウ。Amphipyra livida corvina
パッと見はスズメガのような尾部に見えますが
スズメガが角状のしっぽ(尾角)に対してこれは円錐状の突起。こちらのほうが肉感的です。
茹でていただきましょう。
味見。
少し苦味があるものの、スズメガ系のいい味。モモスズメが近い味。コスズメが近い触感。
姿も似ているが味も似ている。やや粒感のあるこしあんのような食感もあり、香ばしさもある。楽しめる味。
ここで「茹でただけなのに香ばしい」という
昆虫独特の現象について仮説を立てておきます。
1,アミノ酸・糖の存在を知らせるニオイ
アミノ酸と糖を加熱して起こる反応を「メイラード反応」といいます。
メラノイジンを主成分とする様々な物質と香り、特に香ばしい香りが特徴です。
プリンのカラメルのニオイ、というとピンとくるかと思います。
この昆虫には、アミノ酸と糖が含まれており、それらが常温で、何らかの酸化酵素と
反応して、このような香気が発生。エネルギーと体の構成要素である2つの主要成分に
我々ヒトは食欲をそそられる。
2,アルカロイドの分解を示すニオイ
アルカロイドは多くの植物体に含まれる毒物質で、
ヒトも肝臓に解毒作用はあるものの、多量の摂取はキケンです。
同様に植物食性の昆虫にも、解毒または耐毒の仕組みがあると考えられます。
解毒は消化酵素によって無毒化するもので、
耐毒はそのまま体内や血液中に毒成分をもっていても、
生命活動に支障をきたさない仕組みのことです。
特に毒を酸化分解した場合、
香気成分であるフェノール、ピリジン、ピラジンなどが
出てくる可能性考えられます。。
そのため、「植物由来アルカロイドを分解している昆虫」
は食べられ、
「血液中に滞留させている昆虫」は食べられない、という嗅覚弁別なのではないか、
と考えると、
ヒトが火を持つ前から、「香ばしい香り」を良い香りとしている理由にもなるかもしれません。
(香ばしい と 火 が先に関連していたならば、火の危険性や火に対する恐怖と全く別の「食欲」がそそられる理由が説明できません)
もうちょっと先の話ですが
「嗅ぐことで美味しい昆虫を見分ける」
ことができるようになるかもしれませんね。 感覚を磨いていきたいと思います。
ヤドリバエにやられて、泣く泣く味見したことを紹介しました。
これは後にイケダハヤト氏の目に止まり、
プチ炎上(笑)した記念すべき記事です。
その後
シロヒトリ成虫を食べ
味が良かったことから私は
「シロヒトリは味が良い」と決めつけていました。
幼虫の味見をしないまま、です。
そして春が来て、彼らがまたやってきました。
シロヒトリ Chionarctia nivea
不思議なものです。
「おあずけ」された経験と
「成虫が美味しい」という情報から
既に食欲が湧いています。おいしそうです。
ただ問題はその毛、
カレハガの時はサナギになるまで待ち、
マイマイガの時はそのまま食べたらのどごしが悪く
今回はどうするか。
と、
そんな時に虫研究者は天啓を与えてくれます。
というか
「クロカタビロオサムシ」が。
「毛虫の美味しい食べ方」を教えてくれました。
昆虫食を昆虫食昆虫から教えてもらうのです。
論文
http://beheco.oxfordjournals.org/content/early/2014/05/08/beheco.aru080
動画
使われた毛虫はクワゴマダラヒトリという近縁のヒトリガです。
「毛を剃る」これは素晴らしいですね。
今回は論文の鼻毛カッターよりもきっちり毛を落としたかったので
一旦凍らせ、よく研いだ出刃包丁で周囲の毛を取り去りました。
こんな感じ。
ヌードシロヒトリ。脱いだら結構印象かわるものですね。
味見です。
クニュクニュとしたコシのある歯ごたえ。
苦味が強い。消化管内容物が多かったので食草によるかも。
食草を検討し、消化管内容物をとってから再チャレンジしたい。
残念ながら、私の食欲を裏切り、シロヒトリ幼虫は
余り美味しいものではありませんでした。
ただ、「おあずけされると美味そうに思う」というのは
限定品商法に見られる常套手段ですので、
これからも「美味しい昆虫おあずけブログ」
として、昆虫食の普及に努めて参りたいと思います。
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このブログは以下に移動しました。http://mushi-sommelier.net
2008年「なぜ昆虫に食欲がわかないのか」研究を開始
食べたらおいしかったので「昆虫食で世界を救う方法とは」に変更。
昆虫の味の記載から、昆虫の特性を活かしたレシピの開発、イベント出展、昆虫食アート展覧会「昆虫食展」まで、
様々な分野の専門家との協力により、新しい食文化としての昆虫食再興を目指す。
2015年 神戸大学農学研究科博士後期課程単位取得退学
テーマは「昆虫バイオマスの農業利用へむけたトノサマバッタの生理生態学的解析」
2018年よりラオスでの昆虫食を含めた栄養改善プログラムに専門家として参加